この研究では、高校ラグビー選手の3年間における体格・筋力の成長過程を縦断的に明らかにしており、ジュニア世代のトレーニングやタレント発掘など、今後の日本ラグビーの発展を考える上で重要な知見になると考えられます。
【研究のプレスリリース】
近年のラグビー日本代表の活躍は著しく、2019年ラグビーワールドカップでは世界の強国を倒してベスト8に進出するなど躍進を遂げています。そんな日本ラグビー界の発展をサポートするためには、ジュニア世代のラグビープレーヤーがどのように成長していくかを理解することが大切ですが、これまで日本のジュニア世代のラグビープレーヤーに関する縦断的な研究は行われておらず、日本のジュニア世代のラグビープレーヤーがどのように成長するかは明らかではありませんでした。
そこで、本研究では国内の高校部活動に所属するラグビー選手83名を対象に、高校入学から卒業までの3年間を通して定期的な体力測定を実施し、身長、体重、脂肪量などの体格指標、ベンチプレスや等速性膝関節屈曲伸展筋力といった筋力指標、50m走やアジリティタイム、ジャンプなどのスプリントパフォーマンス指標が発達によってどのように変化するか、また、それらにフォワード (パワーを活かしてスクラムなどに関わるポジション) やバックス (スピードを生かしてトライを狙うポジション) といったポジション特性があるのかを検討しました。
体格指標において、体重自体はポジションに関わらず3年間で成長するものの、脂肪量や徐脂肪体重 (脂肪を除いた筋肉などの重さ) の変化にはポジション特性が見られ、脂肪量はバックスではほとんど増加せず、徐脂肪体重はポジションにより変化するタイミングが違うことが明らかになりました (図1)。また、筋力指標においては、体格を考慮するためにこれまで多くの研究で筋力を体重で除した相対値が用いられてきましたが、本研究では体重よりも筋量の変化をより反映する除脂肪体重に対する相対値についても検討しました。その結果、上肢筋力の相対値の成長に関してポジションによる差はみられないこと (図2)、下肢筋力の相対値は3年間で発達が見られないことが明らかになりました。さらに、スプリントパフォーマンスについても3年間で発達が見られませんでした。
図1.脂肪量 (Fat mass, A) および徐脂肪体重 (Lean body mass, B) の変化
ラグビー競技においてフォワード (FWs) とバックス (BKs) の間には体格的な特性があります。高校生年代においてもポジション特性があるとともに、発育発達の過程も異なる経過をたどることが明らかになりました。
図2.最大ベンチプレス挙上重量の体重 (A) および除脂肪体重 (B) に対する相対値の変化
代表的な上肢筋力の指標であるベンチプレスにおいて、体重に対する相対値ではいずれのポジションおいても成長が見られ、フォワード (FWs) よりもバックス (BKs) で高値を示しますが、より筋量を反映すると考えられる徐脂肪体重に対する相対値ではポジション間の差がなくなります。
本研究から、体格が大きく変化する高校年代のラグビー選手においては、筋力の絶対値や体重に対する相対値ではなく、より筋量を反映する除脂肪体重に対する相対値を用いた比較を行うことでより正確な筋力評価を行うことができると考えられます。さらに、世界におけるラグビー強豪国と比較すると、日本のジュニア世代のラグビー選手は身体の大きさだけでなく、下肢筋力とスプリントパフォーマンスの成長が見られませんでした。日本のジュニア世代のラグビー選手を対象とした縦断研究である本研究の知見は、ジュニア世代のトレーニングやタレント発掘など、今後の日本ラグビーの発展を考える上で重要になると考えられます。